子どもたちが屠殺ごっこをした話
とある郊外の一郎くんのお家のお話です。
お父さんと、お母さんと、一郎くんと、弟の二郎くんと、妹の幸子ちゃんの丁度5人の家族です。
お父さんは毎日電車に1時間30分乗って都心の会社まで通っています。以前は30分もあれば会社まで行くことができたのですが、一郎くんが生まれ、おまけに二郎くんまで生まれてしまったので、なけなしのお金とお父さんのお父さんとお母さんとお母さんのお父さんとお母さんからお金を借りて、1時間と30分かかる郊外の日当たりの良い静かなところへお家を建てました。
お父さんは最初の頃は、よく自分の家とひとさまのお家を間違っていました。それというのもみんな同じ格好の家ばかりなもので…。ときどきお母さんと話をしてたものです。
「酔っちゃってさ…玄関を開けるとさ…知らない女の人がいるんだよねえノノ俺はさあノ『あなた誰ですか?』なんてやさしい声でいうと…あいては『あなた…誰ですか?』なんて怒った声でいうんだよネェ…」
「馬鹿だよ…あんた…」と笑いながらお母さんがよく言ったものです。
お母さんは赤ちゃんの世話に毎日毎日忙しくしています。
広いお家へ越してきて2年目に妹の幸子ちゃんが生まれたからです。お父さんとお母さんは初めての女の子でとても喜んでいます。一郎くんと二郎くんは遊び仲間が増えたのでとても喜びました。一郎くんも二郎くんも二人で遊ぶのはそろそろ飽きてきた頃でした。だから毎日毎日はやく赤ちゃんが大きくなれ大きくなれと思っています。
二人はいつもテレビを見てはテレビの中のお話のように遊ぶのがとても大好きです。一郎くんは一度テレビの中の男の子が空を飛べるのを見て、自分もてっきり飛ぶことができると思って、2階のベランダから空高くめがけて飛んでしまったことがありました。幸いそれは足の骨を折って、一ヶ月余りの入院で済みましたが、どうしても自分は空を飛ぶことができないかと、病院にいる間中ずっと考えていました。今も時々考えています。二郎くんは二郎くんで、テレビの中の動物たちがお話しするのを見ては、いつも遊びに来るネコにお話しをしているのですが、ニャンとも自分とお話しできないのを見ては、このネコは馬鹿だなーと、いつも思っています。だからお母さんに一度ならず三度もクドクドたずねたことがありました。
「どうして…このネコはお話しできないの?」というと
「馬鹿だネェ…あれはテレビの中のお話でしょう…」というのです。
むりもありません…二人とも赤ちゃんの時から毎日毎日2時間もテレビを見て育ったものですから。一郎くんは5才ですから、かれこれ3650時間も見ているのですから。
それはまるまる152日分ですから…起きている時間から計算すると大体260日です。だから一郎くんは5年のあいだに、もうたっぷり1年テレビを見っぱなしということになります。それはそれは大変なことです。一郎くんの頭の中の1/5はテレビです。それにテレビのお話のことをいつもいつも夢中で考えていますので、頭の中の半分はもうテレビの事で埋まっています。いや、それ以上かもしれません。
一度こんなことがありました…それは、一郎くんの5才の誕生日のとき、みんなそろって遊園地へ行ったときです。一郎くんも二郎くんもテレビの中の人気ものが、二人の目の前で楽しくお話ししたり、ダンスをしたり、歌を歌ったり、二人とお話ししたり、二人を抱っこしてくれたりしたものですから、それはそれは大変ビックリし、二人とももうすっかりテレビの中で起こっている事は、もうすっかり本当の事だと信じてしまいました。
ある日___普段はお昼寝しているのですが___
一郎くんはその日に限ってなかなか寝つかれず、うとうとしている時、お母さんが見ていたテレビをなにげなくのぞき込みました。それはお母さんの大好きな料理の番組でした。食べる事が大好きな一郎くんは大きな目を一段と大きくし食い入るようにみました。その日は一匹の豚からどの位の御馳走ができるかというお話でした。お肉屋さんが丸々太った豚を大きな包丁でお腹を切り開くところがテレビの画面いっぱいに写りました。そして腸をとり出したり、血を抜きとったり、足を切ったり、最後は豚の頭だけ残って、あとは何処へいったか判らない位になりました。それから料理をする人達がソーセージをつくったり、ハムをつくったり、シチューをつくったり、たくさんのいろんなおいしい豚の食べ物をテーブルの上にどんどん並べていくのです。大きく口を開けた一郎くんはよだれを流しながら熱心に見ていました。
次の日、一郎くんは二郎くんと二人でお肉屋さんごっこを始めました。一郎くんは早速台所へ行って包丁を持ってきて、豚になった二郎くんの体に包丁を突き刺しました。すると二郎くんはとても痛かったので、すごく大きな声で悲鳴をあげました。2階で幸子ちゃんをお風呂に入れていたお母さんはビックリし下へ降りてみると、二郎くんの体に包丁が突き刺さっており、血が床いっぱいに広がっているので、たいそう興奮し二郎くんに刺さっていた包丁を抜きとり、一郎くんの心臓へ突き刺すと、噴水のように血が吹き飛びました。お母さんはしばらくしてやっと我にかえり、幸子ちゃんのことを思い出し、大急ぎで2階へ駆けって行きましたが、幸子ちゃんは風呂の中で溺れて死んでいました。あまりの恐ろしい出来事にお母さんは気も狂わんばかりになり、首をくくってしまいました。
お父さんは1時間と30分かけて疲れた体をひきずってお家へ帰ってみると、一郎くんと二郎くんが血の海の中で死んでおり、おまけに一郎くんの心臓に包丁が刺さっているのをみると、髪がさか立ち、抜けた腰をひこずって2階へ行くと、またもお母さんまでも白い目を飛び出し、舌を10Bたらして首をつっているし、赤ちゃんの幸子ちゃんはお風呂の中で浮いているし……で、お父さんはわずか5分の間にそんな悲惨な光景を見てしまったものですから、心臓がもの凄いスピードで脈打ち始め、血がすさまじい勢いで体中を駆け巡り、ついに頭のてっぺんから吹き出しお父さんも死んでしまいました。
教訓
あなたの人生を損なうおそれがありますので、
テレビの見すぎに注意しましょう。
テレビは20才をすぎてから……。